Читать книгу «王の行進» онлайн полностью📖 — Моргана Райс — MyBook.
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第四章

ガレスは部屋の中で歩きながら、その夜起こったことを不安な気持ちで思い起こしていた。宴会で起きたことが信じられなかった。なぜすべてが失敗に終わったのか。あの愚かな少年、よそ者のソアに、どうやって自分の服毒計画をかぎつけ、そのうえ杯を途中で奪うということができたのか、さっぱりわからなかった。ガレスは、ソアが飛び込んで来て、杯を叩き落した瞬間を思い出した。杯が落ちる音を聞き、ワインが床にこぼれて自分の夢や野望もそれと共に流れていくのを見た。

その瞬間、ガレスは打ちのめされた。それまで目標にしてきたことが打ち砕かれたのだ。そしてあの犬がワインをなめて死んだ時、自分は終わったと思った。自分の今までの人生がすべて脳裏をよぎり、父親を殺そうとしたことが見つかって終身刑を言い渡されるのを思い描いた。もっと悪いことには、死刑に処せられるかも知れない。愚かだった。こんな計画を立てるのも、あの魔女を訪ねることも、するべきではなかった。

少なくとも、ガレスの行動だけは素早かった。賭けに出て、飛び出し、ソアを最初に非難した。思い出すにつけ、自分が誇らしく思える。なんと素早い反応だったろう。 考えがひらめいた瞬間だった。そして驚いたことに、それが効を奏した。ソアは連行され、その後は宴もまた落ち着いたようだった。もちろん、前と同じ状態というわけにはいかない。だが少なくとも、疑惑はあの少年に向いたようだった。

ガレスは事態がそのままであってくれることを願った。マッギル家の者を狙った暗殺未遂があってから数十年が経っていたため、この出来事に対する取り調べがより本格的に行われることになるのでは、と恐れた。考え直すと、毒を盛ろうなどというのは愚かだった。父は無敵だ。ガレスはそのことを知っていたはずなのに、無理をし過ぎた。そして今では、疑いが自分に向くのも時間の問題だと考えずにはいられなかった。手遅れになる前にソアの罪を証明し、彼が処刑されるためにできることは何でもしなければならないだろう。

ガレスは、少なくとも自分の失敗の埋め合わせはした。未遂に終わった後、暗殺を中止し、今はほっとしていた。計画が失敗し、自分の中のどこか奥のほうで、本当は父を殺したくない、手を汚したくない、という気持ちがあることに気づいた。自分は王位にはつかない。王にはならないだろう。今夜の出来事を経て、そのことを受け止められた。少なくとも、自分は自由でいられる。秘密、裏工作、常に付きまとう、見つかることへの不安。こうしたストレスに対処することは自分にはもうできない。ガレスには重荷だった。

歩き続けているうちに夜も更け、やっと少しずつ落ち着いてきた。自分らしさを取り戻して、ちょうど休もうとしていたところに、突然衝突音がしたので振り返ると、扉が開くのが見えた。ファースが目を見開き、まるで追っ手が来るかのようにひどく取り乱して部屋に飛び込んで来た。

「死んだよ!」ファースが叫んだ。「死んだんだ!僕が殺した。死んだよ!」

ファースは半狂乱で声を上げて泣いていた。ガレスはファースが何を言っているのかわからなかった。酔っているのか?

ファースは叫び、泣きわめき、手を挙げて部屋中を走り回った。その時、ガレスはファースの手が血だらけなのに気づいた。黄色のチュニックにも血のしみが付いていた。

ガレスは心臓がドキッとした。ファースは人を殺してきたのだ。でも一体誰を?

「誰が死んだって?」ガレスは詰問した。「誰のことを言っているんだ?」

ファースは気が狂ったようになっていて、集中することができない。ガレスは走って近づくと、腕をつかみファースを揺さぶった。

「答えるんだ!」

ファースは目を開けて、野生の馬のような目をしてじっと見つめた。

「君の父上だよ!王様だ!僕の手で殺したよ!」

その言葉でガレスは自分の心臓がナイフで突かれたような気がした。

目を大きく開け、凍り付き、全身が萎えていくのを感じながら見つめ返した。握っていたこぶしを緩め、後ろに退いて、息を静めようとした。血を見て、ファースが本当のことを言っているのはわかった。どういうことか推測することさえできなかった。馬屋の少年のファースが? 自分の友達のうちで最も意志の弱い者が父を殺した?

「でも・・・どうしてそんなことができるんだ?」ガレスは息を呑んだ。「いつ?」

「王の部屋で」ファースが言う。「たった今、刺してきた。」

このニュースが現実味を帯び、ガレスは冷静になった。扉があいていることに気づき、走って行って衛兵が誰も見ていないことを確かめてからバタンと閉めた。幸い、回廊には誰もいなかった。ガレスは重い鉄のかんぬきをかけた。

急いでもとのところへ戻った。ファースはまだ興奮していて、落ち着かせなければならない。答えてもらう必要があった。

ガレスはファースの肩をつかんでこちらに向かせ、手の甲で叩いて止めさせた。ファースはやっと自分に注意を向けた。

「全部話すんだ。」ガレスは冷たく命じた。「起きたことを全部言うんだ。どうしてこんなことをした?」

「どうして、ってどういうこと?」ファースが混乱して聞いた。「殺したがっていたじゃないか。毒は失敗したから、手伝おうと思って。君がそうして欲しいだろうと思ったんだ。」

ガレスは首を振った。ファースのシャツをつかみ、何度も揺さぶった。

「なんでこんなことをしたんだ!?」ガレスは叫んだ。

世界中が崩壊していくような気がした。ガレスは、自分が父に対して良心の呵責さえ感じていることにショックを受けた。理解できなかった。たった数時間前まで、父が食卓で毒を飲んで死ぬことを望んでいたのに。今、父が殺されたことで親友が死んだかのようにショックを受けている。後悔の念に打ちのめされている。自分の中のどこかでは父に死んで欲しくないと思っていた。特にこんな風には。ファースの手によってなんか。剣でなんか。

「わからないよ。」ファースが哀れっぽい声で言った。「ちょっと前まで自分で王を殺そうとしていたじゃないか。杯で。喜んでくれると思ったのに!」

自分でも驚きながら、ガレスは手を挙げてファースの顔を叩いた。

「こんなことをしろとは言っていない!」ガレスが吐き出すように言った。「こんなことをしろとは言っていないからな。どうして殺した?見てみろ。お前は血だらけじゃないか。もう僕たちは終わりだ。衛兵たちが僕らをつかまえるのは時間の問題だ。」 「誰も見ていないよ。」ファースは主張した。「衛兵の交代の時に抜け出したから、誰も見ていない。」

「武器はどこだ?」

「置いてこなかったよ。」ファースは自慢げに言った。「そんなに馬鹿じゃない。処分した。」

「どの剣を使った?」ガレスはそれがどういう意味を持つか考えながら聞いた。後悔が懸念へと変わった。このばか者が残したかも知れない手がかりを逐一思い描いた。自分にたどりつくかも知れない手がかりのすべてを。

「突き止められないのを使ったよ。」ファースは誇らしげに言った。「誰のでもない、切れ味の悪いやつだ。馬屋にあった。他にも同じようなのが4本ある。自分だとはわからないさ。」そう繰り返した。

ガレスは血の気が引いた。

「短い剣だったか?柄が赤くて刃にカーブがついてる。僕の馬の脇の壁にかかっていたのかい?」

ファースはいぶかりながら頷いた。

ガレスがにらみつけた。

「ばか者め。誰のものか突き止められる剣だぞ!」

「でも何も彫られていない!」ファースは怖くなり、声を震わせて言い返した。

「刃には印がないが、柄にあるんだよ!」ガレスが叫んだ。「下のところに!ちゃんと見なかったんだな。このばか者。」ガレスは顔を赤くして前に出た。「僕の馬の記章が下に彫られている。王家を知る者なら誰でもあの剣が僕のものだと突き止められる。」

ガレスは途方に暮れているファースを見つめた。彼を殺してしまいたかった。

「あれをどうした?」ガレスが詰め寄る。「まだ持っていると言ってくれ。持って帰ってきたと。頼む。」

ファースは息を呑んだ。

「注意して捨てたよ。誰にも見つからない。」

ガレスは顔をしかめた。

「どこだ?」

「石の落とし樋に捨てた。城の室内用便器の中だ。中身を毎時間川に捨てている。心配しないで。今頃は川の底だ。」

城の鐘が突然鳴った。ガレスは振り返って開いた窓へと走った。心が乱れている。外を見ると、下で起きている混乱や騒ぎが目に入った。群衆が城を取り囲んでいる。鐘が意味することはただ一つ。ファースは嘘をついていない。王を殺したのだ。

ガレスは全身が氷のように冷たくなるのを感じた。自分がそれほど大きな悪事を引き起こしたとは想像できなかった。そしてよりによってファースがそれをやってのけたとは。

突然、扉を叩く音がした。そして扉が開くと、衛兵が数人飛び込んで来た。一瞬、ガレスは自分たちが逮捕されるのだと思った。

だが驚いたことに、彼らは止まって直立不動の姿勢を取った。

「殿下、父君が刺されました。暗殺者はまだ捕まっていません。安全のため、部屋にいらして下さい。王は重傷を負っておられます。」

その最後の言葉にガレスのうなじの毛が逆立った。

「怪我を?」ガレスが繰り返した。のどにその言葉が突き刺さった。「ではまだ生きておられるのだな?」

「はい、殿下。神が王とともにおられます。生き延びて、この凶悪な行為が誰の仕業か知らせてくださるでしょう。」

短く敬礼をすると、衛兵は急いで部屋を出て行き、音を立てて扉を閉めた。

ガレスの怒りは頂点に達した。ファースの肩をつかんで部屋の中をひきずって行き、石の壁に叩き付けた。

ファースは恐れおののいて言葉を失い、目を見開いて見つめ返した。

「何をした?」ガレスが叫んだ。「もう二人ともおしまいだ

「でも・・・でも・・・」ファースはどもった。「・・・絶対死んだと思ったんだ!」

「何でも確かだと思うんだな。」ガレスは言った。「そしてそれが全部間違ってる!」

ガレスに考えが浮かんだ。

「あの短剣だ」ガレスが言った。「手遅れになる前に、あれを取り返すんだ。」

「でも捨ててしまったよ。」ファースが言う。「川に流れてったよ!」

「室内用便器に捨てたんだろ。それがすなわち川に行ったということにはならない。」 「たいていはそうなるよ!」ファースが言った。

ガレスはこの愚か者のへまにはもう我慢できなくなっていた。ファースの前を通り過ぎてドアから出て行った。ファースが跡を追う。

「一緒に行くよ。どこに捨てたか教える。」ファースが言った。

ガレスは回廊で足を止め、振り向いてファースを見つめた。彼は血だらけだ。衛兵が見つけなかったのが驚きだ。運が良かったのだ。ファースは今まで以上に障害となる。 「一度しか言わないぞ。」ガレスがにらんだ。「今すぐ僕の部屋へ戻って服を着替えろ。そして着ていたものを燃やすんだ。血がついているものはすべて処分してこの城から消えろ。今夜は僕から離れていてくれ。わかったか?」

ガレスはファースを押しのけると、向きを変えて走って行った。回廊を走り、石造りのらせん階段を召使たちの居るところへ向かって何階も駆け下りた。

やがて地下に入ると、数人の召使がこちらを向いた。鍋や湯を沸かすためのバケツを磨いているところだった。レンガ造りの窯では火が燃え盛り、召使たちはしみだらけのエプロンを着け、汗だくになっていた。

ガレスは、部屋の向こう側に室内用便器を見つけた。汚物が落とし樋を伝って毎分落ちてくる。

ガレスは近くにいた召使に駆け寄り、腕をつかんだ。

「あの便器を最後に空にしたのはいつだ?」ガレスは聞いた。

「ほんの数分前に川を持っていきましたよ、殿下。」

ガレスは振り返り、部屋から駆け出して行った。城の回廊を走りぬけ、らせん階段を上って、ひんやりした空気の屋外へと飛び出した。

草原を駆け抜け、息を切らしながら川に向かって全力で走って行く。

川に近づくと、岸辺の大きな木の陰に身を隠す場所を見つけた。二人の召使が室内用便器を持ち上げて傾け、川の急な流れに中身を空けるのを見ていた。

便器を逆さにして中を全部空にし、二人が便器を持って城に向かって歩いて行くまで見届けた。

やっとガレスは満足した。誰も短剣を見つけてはいない。それが今どこであろうと、川の中だ。どこかわからないところに流されて行っている。もし父が今夜亡くなったら、殺人者までたどり着く証拠はもう残っていない。

あるいは残っているだろうか?

第五章

ソアはクローンを後ろに従え、王の部屋に続く裏の通路を進むリースの跡をつけて行った。リースは石の壁に隠された秘密の扉を通って案内し、狭い場所を一列で進み、頭がクラクラするほどあちこちを曲がりくねりながら城の心臓部を通っていく際、たいまつを持って導いてくれた。狭い、石の階段を下ると別の通路につながっていて、曲がると目の前にまた別の階段があった。ソアはその複雑さに驚いた。

「この通路は何百年も前、城の中に作られた。」リースが息を切らして上りながらささやくように説明した。「僕の父のひいおじいさん、三代目のマッギル国王が作ったんだ。城の包囲があった後、逃げ道として作らせた。皮肉なことに、それ以来包囲は起きていなくて、この通路は何世紀も使われていない。板で塞がれていたのを、僕が子どもの時に見つけた。どこにいるか、誰にも知られないで城の中を行き来するのに時々使うのが好きだったんだ。子どもの頃、ここの中でグウェンとゴドフリーと僕とでかくれんぼをしたんだ。ケンドリックはもう大きかったし、ガレスは僕たちとは遊びたがらなかった。たいまつは使わない、それがルールだった。まったくの暗闇だよ。その頃はそれが怖かった。」

ソアは、リースが名人芸ともいえる絶妙な通路の案内をしてくれるのになんとかついて行こうとしていた。隅々まで頭に入っているのは明らかだった。

「こんなに曲がるのをどうやって全部覚えられるんだい?」ソアは敬服して聞いた。

「子どもがこの城で成長していくのはさみしいものだ。」リースは続けた。「特にみんなが年上で、リージョンにもまだ小さくて入れないとなると、他に何もすることがない。ここの隅から隅まで知り尽くすことを目標にしたんだ。」

二人はまた曲がり、石段を3段下った。壁の狭い抜け穴をくぐって曲がり、長い階段を下りた。やっと分厚い樫の扉までたどり着いた。ほこりをかぶっていた。リースは片耳を当てて聞き入った。ソアがそばに寄る。

「このドアは何?」ソアが聞いた。

「しーっ」リースが言った。

ソアは黙って、自分の耳も扉に当てた。クローンはソアの背後で見上げている。

「ここは父の部屋の裏口だ。」リースがささやいた。「誰が中にいるか知りたいんだ。」

ソアは中のくぐもった声に聞き耳を立てた。心臓が鳴っている。

「中は満員のようだ。」リースが言った。リースは振り返って、意味ありげな目付きをした。

「君は猛烈な非難の嵐の中に入っていくことになるな。将軍たち、議員、顧問団、家族、みんなだ。全員が君のことを警戒していることは確かだ。暗殺者だと思われているからな。リンチを行おうとする群衆の中に入っていくようなものだ。もし父が、君が殺そうとしたと未だに思っているなら、君はおしまいだ。本当に入りたいか?」

ソアは息を呑んだ。今行かなければ、もうチャンスはない。これが自分の人生の転機の一つだと思うと、喉の渇きを覚えた。今引き返して逃げるのは簡単だ。宮廷から遠く離れ、どこかで安泰な人生を送れるだろう。あるいは、この扉の向こうへ行き、残りの人生を牢獄で愚か者たちと暮らすことだってあり得る。そして処刑されることも。

深呼吸をして、決心した。悪魔に真っ向から立ち向かわなければならない。後戻りはできない。

ソアは頷いた。口を開くのも怖かった。そうすれば気が変わってしまうかも知れない。

リースも同意した表情で頷き返した。そして鉄の取っ手を押し、扉に肩を押し当てた。

ソアは扉が開いた時、まぶしいたいまつの光に目を細めた。王の部屋の真ん中に、クローンそしてリースとともに立っていた。

床に伏している王の周りには、少なくとも12人の人間が詰めかけていた。王の上に立っている者、跪いている者。周囲を取り囲んでいるのは、顧問と将軍たち、アルゴン、王妃、ケンドリック、ゴドフリー、そしてグウェンドリンもいた。死を控えた、徹夜の看病だった。そしてソアはこの家族のプライベートな場に侵入しようとしていた。

室内は陰鬱な雰囲気だった。皆、表情が重々しかった。マッギルは枕に支えられてベッドに横たわっていた。ソアは、王がまだ生きているのを見て安堵した。まだ今は。全員が一斉に顔を向け、ソアとリースが突然現れたことに驚いていた。石の壁の秘密の扉から部屋の真ん中にいきなり現れたのだから、どんなにか衝撃を受けただろうとソアは思った。

「あの少年だ!」立っていた者が憎しみを露わにソアを指差しながら叫んだ。 「王に毒を盛ろうとした奴だ!」

部屋のあちこちから衛兵がソアに向かって来た。ソアはどうしたら良いかわからなかった。振り向いて逃げ出したい気持ちもあったが、この怒りに燃えている人々に立ち向かわなければならないとわかっていた。王との仲を復活させなければならないと。そのため、衛兵が自分に駆け寄り、つかみかかろうとした時も覚悟をして身を引き締めた。そばにいたクローンがうなり、攻撃しようとする者たちを牽制した

ソアは立ちながら、突然自分の中に熱いものが湧き上がってくるのを感じた。力が湧き起こっている。無意識のうちに片手を上に挙げて、手のひらをかざし、自分のエネルギーを彼らに向けていた。

ソアは、一フィート手前のところで、凍りついたかのように兵士たちが歩を止めたことに驚いた。何であろうと、力はソアの中に湧き起こり、彼らを寄せ付けなかった。

「よくもここへ入り込んで、魔法を使うなどということができるな、小僧!」ブロム、王の最も偉大な将軍が、剣を抜きながら叫んだ。「王を一度殺そうとしただけでは足りないのか?」

剣を抜いたブロムはソアに近づき、その時ソアは何かが自分を圧倒するのを感じた。 今までにない強い感覚だった。ただ目を閉じ、集中した。ブロムの剣、その形、その金属にエネルギーを感じ、どうしたものか、自分がそのエネルギーと一体となった。それが止むよう、心の目で命じた。

ブロムは歩み寄る途中で凍りつき、目を見開いた。

「アルゴン!」ブロムが向きを変え、叫んだ。「この魔術をすぐに止めさせろ!この少年を止めるんだ!」

アルゴンは皆から進み出て、ゆっくりと頭巾を取った。力強い、燃える目でソアを見返した。

「彼を止める理由は見つからない。」アルゴンは言った。「人を傷つけるために来たのではないからだ。」

「気が変になったのか?あいつは我々の王を殺しかけたんだぞ!」

「そなたがそう思っているだけであろう。」アルゴンは言った。「私はそうは見ていない。」

「彼をそのままにさせなさい。」厳かな、深みのある声がした。

マッギルが身を起こした時、皆が振り向いた。王は弱々しく皆を見た。明らかに、話をすることが辛そうだった。

「その少年に会いたかった。彼は私を刺した者ではない。その男の顔を私は見た。彼ではなかった。ソアは無実だ。」

ゆっくりと、皆は衛兵の警戒を解いた。ソアも心を落ち着け、兵士たちを自由にした。彼らは、ソアがまるで別世界からの者か何かのように用心深く眺めながら、ゆっくりと剣を鞘に収め、下がって行った。

「彼に会いたい。」マッギルが言った。「二人きりでだ。あとの者は下がれ。」

「陛下」ブロムが言った。「本当にそれが安全だとお思いですか?陛下とこの少年と二人きりで?」

「ソアに手を触れてはならん。」マッギルが言った。「さあ、二人にしておくれ。全員だ。家族もだ。」

重い沈黙が室内に垂れ込めた。誰もが顔を見合わせ、明らかにどうしたら良いのかわからない、という風だった。ソアはその場に釘付けになって、起きたことすべてを整理できずにいた。

王族を含め、他の者は皆、列を作って一人ひとり部屋から出て行った。クローンはリースに預けられた。先ほどまで人で埋め尽くされていた王の部屋は、急にがらんとなった。

扉が閉められた。ソアと王だけが沈黙の中にいる。信じられなかった。マッギル王が青い顔をして痛みに苦しみ、横たわっている。そのことがソアを言葉に表わせないほど苦しめた。なぜかはわからないが、自分の一部までもがそのベッドで死にかけているような気がした。何よりも王に元気になって欲しかった。

「ここへ来なさい。」マッギルが弱々しく言った。ささやく程度の、かれた声だった。

ソアは頭を垂れ、すぐに王のもとに跪いた。王が力なく手首を差し出した。ソアはその手を取り、キスをした。

ソアが見上げると、マッギルが弱々しく微笑んでいた。ソアの頬に熱い涙が伝い、自分でも驚いた。

「陛下」ソアはもう自分の中に押しとどめておくことも出来ず、話し始めた。「どうか信じてください。私は毒を盛ったりなどしていません。自分でも知らない何らかの力によって、この計画を夢で知っただけなのです。陛下に警告したかっただけです。信じてください。お願いします。」

マッギルが手を挙げたので、ソアは黙った。

「そなたのことについては、私が間違っていた。」マッギルが言った。「別の誰かの手で刺されて初めてそなたではないとわかった。そなたはただ私を救おうとしてくれただけだ。許してくれ。そなたはずっと忠実であった。この宮廷で唯一の忠実な者かも知れぬ。」

「私の思っていることが間違っていればとどんなに願ったことでしょう。陛下が無事でいて下さればと。夢がただの幻であって、暗殺など起こらなければと。でも、これは間違っているかも知れません。陛下は良くなられるかも知れないのですから。」

マッギルは首を振った。

「逝く時が来た。」ソアに向かって言った。

ソアは息を呑んだ。そうであってくれるなと願いながらも、その時が来たと感じ取っていた。

「陛下は誰がこのようなことをしたかご存知なのですか?」ソアは夢を見たときからずっと自分の中でくすぶっていたことを尋ねた。誰が、そしてなぜ、王を殺そうと思うのか想像もできなかった。

マッギルは天井を見上げ、大儀そうに瞬きをした。

「男の顔は見た。よく知っている顔だ。だが、どういう訳か、誰だか思い出せないのだ。」

王はソアの方を向いた。

「今となってはどうでもよい。もうその時が来た。犯人が彼であるにせよ、別の者にせよ、結果は同じだ。今大事なのは」マッギルが手を伸ばし、ソアの手首を驚くほどの力で握って言った。「私がいなくなったあとに起こることだ。王のいない国になる。」

マッギルは、ソアには理解しがたいほどの強烈な眼差しで彼を見た。何と言っているのか、ソアには正確にはわからなかったが、自分に何かしら求めているとして、それが何かはわかった。ソアは聞きたかったが、マッギルにとっては呼吸をするのも大変なことが見て取れたので、中断させたくなかった。

「アルゴンはそなたのことで言っていたのは正しかった。」握っていた手をゆっくりと緩めながら言った。「そなたの運命は私のよりも偉大だ。」

ソアは、王の言葉に体中を電気が走るようなショックを受けた。自分の運命?王の運命よりも偉大?王がソアのことをわざわざアルゴンと話していたというのも理解しがたいことだった。そしてソアの運命が王のそれよりも偉大であると言ったこと – それは一体どういう意味だろうか?マッギル王は最期の瞬間に妄想に取りつかれたのだろうか?

「私はそなたを選んだ・・・私の家族に招き入れたのには理由がある。その訳がわかるかね?」

ソアは首を振った。どうしても知りたかった。

「なぜ私がそなたをここに置きたいと思ったかわからないか?最期にそなただけにここにいて欲しいと思った訳が?」

「申し訳ありません、陛下。」首を振りながらソアは言った。「わかりません。」

マッギルは弱々しく微笑んだ。目が閉じていく。

「ここからずっと離れたところに偉大な国がある。ワイルド、そしてドラゴンの国も越えたところだ。ドルイドの国だ。そなたの母はそこの出身だ。そなたは答えを得るためにそこへ行かねばならない。」

マッギルの目ははっきりと見開かれ、ソアには理解できない激しさをもってソアを見つめた。

「我々の王国はそれにかかっている。」マッギルは更に言った。「そなたは他の者とは違う。特別だ。自分が何者かそなたにわかるまで、我々の王国に平和が訪れることは決してないだろう。」

マッギルは目を閉じ、呼吸が浅くなってきた。呼吸するたびに喘いでいる。ソアの手首を握る手も徐々に弱くなってきた。ソアは自分の目に涙が浮かぶのを感じた。王が言ったことを理解しようとして、頭がぐるぐる回っている。集中などできなかった。すべてを正しく聞き取れたのだろうか?

マッギルは何かを囁こうとしたが、声が小さ過ぎてソアにはわからなかった。すぐそばにもたれかかり、耳をマッギルの口に近づけた。王は最期にもう一度頭を上げ、力を振り絞って言った。

「私の仇を討ってくれ。」

そして突然、マッギルは硬直した。少しの間そのまま横たわっていたかと思うと、頭が脇に倒れた。目を開いたまま、凍りついたように。

亡くなった。

「いやだ!」ソアが泣き叫んだ。

その声が兵士たちに届いたのであろう、一瞬の後に背後で扉の開く音がし、数十名の者が部屋になだれ込む音が聞こえた。自分の周りで動きがあるのを、頭の片隅で理解していた。城の鐘が何度も何度も鳴らされるのをぼんやり聞いた。鐘の音に合わせるように、ソアのこめかみで血が脈打った。それもすべて不鮮明になり、やがて部屋がぐるぐると回り始めた。

ソアは気を失い、石の床にばたりと倒れた。.